前日入りスタッフが集合するころ、私は仕事中だった。午後から検討会と会議・・・休めなかった。先に行ったみんなゴメンよ、少人数での設営は大変なのに。
川の学校の準備は子どもが来る前日から始まる。子どもとスタッフ合わせて50人以上が快適に過ごすための空間を作り上げるのだ。そして遊び場の下見も必ずやる。どんな遊びができるか、危険な所はないか、ケガをしたら楽しくないし、つまらない。何よりぼくらも楽しみたいのだ。
夜、仕事や学校を終えたスタッフがキャンプ地へ集まってくる。本番のスケジュールやフィールド(遊び場)の下見結果について共有する。日がかわった頃、やっと横になれた。13期最初のキャンプ、体は疲れているのになかなか寝付けない・・・あした天気はいいみたいだ、水分補給、こまめにしないとなぁ・・・きっと川ガキたちも期待と不安で眠れぬ夜を過ごしていることだろう。
朝5時半にアラームが鳴る。ヒバリがさわやかにさえずっているが、さすがに寝足りん。DM※‘さき’の指示により6時半から行動開始なのだ。(今年のDMさん、なにげに人づかい荒い。。。)子どもがくる前に、設営の残りや、昨日見ていない部分の下見もしなければ。(ということで早朝から川で遊ぶ怪しげな集団がいましたとさ。)
今回のキャンプ地は、川の学校の原点ともいえる‘第十堰’その北岸。第十というからには1~9はどこにあるの?って思いますよね、私も最初はそうでした。でも第十というのは地名で、そこにある堰だから第十堰(だいじゅうぜき)。地元の方は親しみをこめて「お堰」と読んでらっしゃいます。
※MD(マザー・ディレクター)
スタッフのリーダー。キャンプ全体のまとめ役。
9時すぎ、気の早い子どもがぽつぽつと現れます。はやり不安と期待が入り混じった表情をしていますね。ようこそ!吉野川へ!!
でも良く見てみると保護者のみなさんのほうが不安そうに見えます。大切なお子さんを預けるんだから無理もないのかな。 キャンプ地ではスタッフが走り回っています。暑いから水分をちゃんととれよ。
10時すぎには徳島駅からのバスも到着。さぁ、みんな揃ったら開校式だよ。 スタッフの自己紹介の後は子どもの番、名乗るのは本名じゃないよ。自分が呼んで欲しい名前=キャンプネーム。自分の本当の名前の子もいれば、フランス語?と思われる名前をつけた子も。こんなところでも個性を知ることができて面白いね。
そして校長の挨拶。
「よく来た。」
「君たちは自由です。」
「何をやってもいい。」
「ナイフを使い、焚き火をする。」
「魚を食べる。‘つる’じゃないんだよ、とる。」
「釣るだけじゃなくて、網やヤス、手づかみ、いろんな方法で魚をとる。」
「魚をとって、殺して食べる。」
「人は他の生き物を殺して、その命をもらって生きています。」
「学校ではやらしてくれないことも、やっていいんだ。」
「ただし、川に入る時はライフジャケットを着ること。」
と、こんな感じだったかな。
でも君たち。自由ってけっこう大変なんだよ。それはこれから身をもって感じてもらおう。
<川の学校は自由>
川の学校は自由です。
ただし、自分で責任を取ること。
遊ぶばっかりで準備も片付けもしない子は一人前の川ガキとは言えません。
また、遊びの中にも約束があります。
川で遊んだり刃物を使って工作したり、焚き火にも多少の危険はあります。自分やほかの人を守るためのルール。
ケガや事故があったらキャンプがつまらなくなるものね。
そして絶対にやってはいけないのが「暴力」。体はもちろん、心を傷つけることもダメ。ほかの子も、自分のことも大切にするから自由でいられるのです。
さて、そんなこんなで始まった13期川の学校。ちょっと様子をのぞいてみましょう。
キャンプの住まいと言えばテント。班ごとに分かれて建てます。「家にあるのといっしょ」という子もいるけど、うまく建てられるかな? 各班のCD※さんの腕の見せどころです。その前に、地面は平らかな?石ころどけたか?雨が降ったら水たまりになったり、風が吹いたら・・・と心配は尽きませんが、子どもはあまり気にしていない様子。とりあえず今回は一晩寝られれば良しとしようか。今回はスタッフが手伝ったけど、今度からは自分たちだけで建てるんだよ。「自分のことは自分でする」が基本だからね。
ほかにも30人が一度に入れる十角テント、運動会とかでよく見るテント(マーキーと呼んでます)が2つ。十角はみんなの共有スペース。マーキーはキッチン、講師席、備品置き場などに使っています。
※CD(チルドレン・ディレクター)
子どもと一緒にテントを建て、ご飯を食べ、子どもの身の回りに気を配るスタッフ。
1日目のお昼ごはんは紅白パスタ。山ほど茹でられたパスタにミートソースとホワイトソースが!どっちをかけても、もちろん両方でもOK。そして温野菜サラダもありますよ。たくさん遊ぶにもエネルギーが要るからしっかり食べないとね。
今年のキッチンスタッフは、もはや古株となりつつある‘ちえちゃん’、2年目‘みすずん’、1年目‘すず’と、昨年に引き続き親ガッパ※の2人も加わって5人。僕らの体調、天気、川の水温なども計算に入れ、徳島の野菜を使った栄養があり美味しいメニューを提供してくれます。そして今年は‘遊べるキッチン’を目指しているとか。いつもご飯の準備や片付けで忙しいけれど、ちゃっちゃと終わらせて子どもと遊ぶぞっ!と意気込んでいます。頼もしいぞ!
Q.水はどうしてるの?
A.キャンプ地に水道はないので、お堰の家※まで車で汲みに行ってます。 ポリタンク6~8本を日に1、2回ほど。
Q.食器洗いは?
A.ボロ布とお米のとぎ汁で洗います。 ボロ布で大まかな汚れを取り、洗剤がわりのとぎ汁で洗う。真水ですすいでおしまい。
※親ガッパ
2012年に発足した川ガキの保護者会から参加してくれているスタッフ。
5回ある研修も若いスタッフと一緒に受けていただいてます。
※お堰の家 第十堰を中心に、吉野川で活動する人が集まる‘世間遺産’。 広く地域の方にも活用していただけるようになっています。
川では、カヌー、泳ぎ、潜り、飛び込み、釣りなど。陸では、焚き火、竹笛づくり、ミサンガとかもやったね。あと、朝の散歩なんてもなかなか気持ちのいいものです。何をして遊ぶかは子どもが自分で決めるんだ。スタッフは指導員でも監視員でもなくて、一緒になって遊ぶ。(時には子ども以上に楽しんでる)
さぁ、それぞれの遊びはどんな様子だったんでしょうね。
●カヌー
子ども10人、それぞれに好きなカヌーを選んでもらった。コケにくくて漕ぎやすいもの、回頭性のいい(まっすぐ進みにくい)もの、短くて小回りがきくもの、いろいろ。岸から水があるところまでは遠いけど、手伝ってあげるから自分たちで運ぼうね。
今年は漕げる子が多いなぁ、中学生の‘公平’はガンガンこいでる...いや、体の小さな‘はるか’にはカヌーもパドルも重いのか、なかなか思うように進んでない。近くやパドルばかり見ててもまっすぐ進まないよ、行きたいほうを見て漕ぐのが基本ね。
カヌーを漕いでるここは堰の西側(海側)、海水が入り込む汽水域だ。なので水面は真水なんだけど下は海水でちょっとしょっぱい。水のかけ合いなんかしてると目にしみるぞ。
●つり
カヌーで進んでいくと、堰から離れた中洲で釣りをしている子たちに出会う。ごめんよ前を通って、すぐに行くからね。この子らは‘投げ釣り’でスズキを狙っているようだ。汽水域だから海の魚も釣れるんだね。で、釣果は? カヌーが邪魔したのか、運だったのかは分からないけど釣れなかったらしい。。。悔しさをバネに次は大漁だっ!
●泳ぎ、潜り
堰の下にはスタッフ‘しゅうや’率いる謎のシュノーケル軍団が。カヌーで近づくとあっという間に取り囲まれます。マスクの向こうの目がきらっと輝いたと思ったらカヌーをひっくり返す!「こらっ!ひっくり返したら水抜き手伝え~」
しゅうやはこう言う。
「川にビビることなく、ガンガン入水してたね。」
「子どもがスタッフを引っ張っていくような勢いがあった。」
いっぺーは
「‘ひま’がライジャケ着たまま豪快な潜りを見せてた。(次はライジャケなしで!)」
水温は高いとはいえ、体が冷えて寒くなってしまった子たち。帰る?いや、すぐには帰りません。中洲に埋まって埋められて砂風呂です。(日に当たった砂は温かいの)
スタッフ‘しほ’によると「‘こうた’は砂の芸術家になってた」とか。こんなところでも才能は開花するものなんだね。
一方、テトラポットの上には、やはり寒くなって水からあがった女の子が数人。そしてその中心にいたのはスタッフ‘太子’。他己紹介で私が予想した通り。モテモテだね!
ダメなものはダメ
この日、堰のすぐ下には沢山の魚たちがいました。
じゃぁ大漁だったねって?いえ、ここでは獲ってません。堰の上下のある範囲は禁漁区になっているから。魚を獲りすぎたら川漁師さんにも迷惑かけるもんね。
Q.お風呂は?
A.今回のキャンプには無かったけど、ドラム缶風呂は大人気の遊び。
沸かすための焚き火も遊びのひとつ。
川で遊んで冷えた体をあたためるには良いんだけど、沸かすのは川の水です。
キャンプ1日目の晩ご飯は、自分たちで作る屋台村。屋台村とは、班ごとに別々のメニューを作ってみんなで食べる遊び。遊びだけど、ちゃんとやらないと美味しいものはできません。ちなみに今年のメニューは、徳島の郷土料理そば米汁、おにぎり、たこやき、手打ちうどん、ドーナツ、フルーツポンチ、わらびもち、ギョウザ、野菜チップス&から揚げ
。今日初めて顔を合わせたCDさんと子どもが協力して1品か2品を作ります。最初はぎこちないんだけど、一緒に料理をしているうちに打ち解けてくる。不思議なものです。
そして作って食べたらおしまい。じゃなくて片付け! なかには脱走して片づけをさぼろうとする子もいるけど、それはダメ。片付けも最後までやるのだ。
夜になると・・・
夜話(よばなし)があります。講師の方の体験談、いろんな川や外国の話、笛の演奏などをしていただいています。初回は野田校長のハーモニカ演奏。五木の子守唄、竹田の子守唄、さとうきび畑、花、ダニーボーイ。それから、第二次大戦中に‘戦場の兵士が故郷の恋人への思いを歌った’リリー・マルレーンなども聴けたね。
それから、6年ぶりに川の学校に戻ってきたスタッフ‘ぐり’のガーナの話。ほんの少しだったけれど面白かったね。また今度、ゆっくり話してもらおう。
夜でも川に
夜話の後は、行きたい子だけエビとりに行くことにしました。
「行きたい子は手を上げて!」って全員か!?
例年数人は本部に残るんだけど...ということで対岸まで車で移動。
ヘッドライトをつけてテトラのあいだにいるテナガエビを探します。テナガエビの目は光を反射するから水中にいても分かるんだ。後ろからそっとアミを掛けてツンツンってやると、ほら入った!でも気をつけないと指の間から逃げ…ぽちゃん。ま、沢山いるからまた獲ればいいんだ。あんまり時間がなかったけど沢山のエビをゲット。それは素揚げにされてあっという間に胃袋の中に消えていったのでした。美味しかったね。
テトラの上や川の中はコケなのがあって滑りやすい。だから磯タビなど足の裏にフェルトが貼ってあるのがいいね。でも足首の動きにくい‘ごつい’ものは泳ぎにくい(平泳ぎがしにくい)ので私はあまり好きではない。
キャンプなどの野外活動に欠かせないのが雨具とヘッドライト。雨具は上下別々で、撥水透湿素材のものがおススメ。水をはじいて湿気を通すので、雨の中着ていても蒸れにくくて過ごしやすい。雨が降らなくても風よけになるし、肌寒いときにも役立つ。
照明のない野外ではヘッドライトがないととても困る。トイレにも行けない。夜釣りやエビとりに行くにも必要、無いと楽しめない。 川に入るときには、ラッシュガードを着るほうがいい。上は長そで、下は足首まであると虫刺され、すり傷などの予防にもなる。そして、必ずライフジャケットを着ること。水に浮くし、ぶつかっても痛くないし、体が冷えるのも防げる。
トランプ禁止
夜話もエビとりも終わって、もう寝るまでは自由時間。家にいたらテレビを見たりゲームをしているころだろうか。でも川の学校ではゲームは持ち込み禁止。携帯電話やスマートフォン、音楽プレーヤーもカメラも持ってきちゃダメ。そして今年はトランプやUNOなどカードゲームも禁止に。だってそんなもんなくても、夜釣りに行ったりクラフトしたり、怖い話や肝試しで・・・十分楽しめるもん。夜もスタッフが一緒に(いやスタッフが率先して)遊びます。
飛び込み
第十堰の上流には高瀬の潜水橋があります。四万十川などでは沈下橋と呼ばれる増水時には水の下に沈む橋です。ここも川ガキに人気の遊び場のひとつ。そう!飛び込みポイント。でも、ひとつ言っておこう。飛べたからエライって訳じゃないんだ。恐いと思うことも恥ずかしいことじゃない。恐い、でも飛びたい、やっぱり止める。自分で決めるってことが大切なんだよ。飛びたいけど恐くて飛べなかった子もいたけど、また次もあるさ。気にしない気にしない。
一方、飛ぶことに慣れてきた‘幸太郎’たちは前転しながら飛ぶと言い出した。「お手本に」と飛ぶことになったわたし、気合を入れてエイっ! 1回転半で顔面から着水。。。みんなは気をつけようね。その後も回転が足らず背中や顔から落ちる子が...でも水面に浮いてくるとみな笑顔だ。それなりに痛いと思うんだけど平気?
寒くなった子は太陽があっためてくれた岩の上で休憩。カセットコンロで沸かした紅茶で中からも温まろうね。川に入らず本部に戻って違う遊びをしてもいいんだよ。とにかく楽しむのだ。遠慮はいらんよー。
自作の釣り竿で
朝から竹に細工をしてつりざおを作っていたのは‘リョウスケ’。一緒にいたスタッフ‘フクスケ’は「こんな仕掛けで釣れるのかなぁ」と内心思ったらしい。しかし、本人は釣る気満々だし、やってみなきゃ分からない。川へGO!
結果は・・・釣れた!それも1匹とかじゃないらしい。去年も思ったけど、釣りって仕掛けだけじゃないのね。やっぱり子どもってスゴイわ。
獲ったら食う!
釣りをする人の中にはキャッチ&リリースする(釣って逃がす)人がいるけど、川の学校は「キャッチ&イート」捕まえたら食べられるものは食べるのです。本部テントの外ではスタッフ‘はな’がせっせと魚を揚げています。魚やエビが大漁で、なにより暑いからたいへん。
十角テントには先に潜水橋から戻った子たちがいますね。キッチンスタッフ‘みすずん’隊長のもとミサンガ作りをしてるみたい。どんな作品ができたかな、今度見せてね!
>゜)))<・・・
最近は、魚や他の生き物を殺すなんて野蛮とか残酷と言う人もいると聞く。しかし「生きる」ということは「殺す」ということだ。他の生命から栄養をもらうことで人間も生きている。もちろん、むやみに生き物を殺してもよいと言いたいのではない。みんな、直接、間接を問わず、命を受け継いで生きている。それを忘れてはいけないと思うのだ。
・・・>゜)))<
たくさん遊んだなと思ったらもうお昼ごはん。メニューは親子丼、みそ汁、浅漬け、とってきた魚やエビもあるよ。朝からずっと遊んでたし、美味いからモリモリ食べてるね。
ご飯の後は、日記を書(描)いたり荷物を片付けたり。テントもたたんじゃおうね。そうそう、今年の日記はスケッチブックになったから、みんな沢山かいてね!
という感じですぎた、あっという間の1泊2日、どうだったかな?
まだ、お互いに遠慮や緊張があるけど、もっともっと力を抜いて、たっくさん楽しもう!
次は吉野川の支流、水質四国一の‘穴吹川’だ。しっかり遊ぶためにも風邪なんか引くなよ!宿題?そんなもん・・・早めにやってしまうんだ!
じゃ、川で会おう!
13期スタッフ さぶちゃん
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