さぁ困った。
13期のMD(マザーディレクター)をさせていただきました、さきです。
これが川の学校13期の最終回を目前に控えた私の気持ちでした。
最終回キャンプを行う筈の善入寺島。これは日本最大の川の中にある島です。
住人は居らず、農業用地と川原、そして災害防備林と呼ばれる長い長い竹林で出来ています。
私自身たくさんキャンプをした経験のある場所ですし、最終回で行う予定のカヌーツーリングは善入寺島をゴールに 上流から下ってくる定番ルートが確立されています。
その、善入寺島で、遊べない…
さぁ困ったぞ。
カヌーで行きたいところに進むには、流れに乗り、時には逆らい、とにかく自分で漕ぐしかありません。これまでカヌーに乗ってこなかったともゆきは「無理~」と思い通りにならずパドルを止めてしまいます。
すかさず「漕がないと川の言いなりやで!」とスタッフから喝が飛びます。なんとか最後まで漕ぎ切ったともゆきは、卒業式で「カヌーが漕げるようになった」と誇らしげに語りました。
釣り班は無謀にもゴムカヌーから竿を垂らしています。
頼むから船に穴は開けるなよ、とバックチーフの大樹が心配そうに眺めます。
この後早々にカヌーでの釣りに飽きた子ども達は場所を変え、入れ食い状態の釣りに大興奮でした。
「帰ろうと思ったらまた釣れるから一生ここに居ようかと思った」
…よかったです、帰ってきてくれて。
堰の下では潜り班が冷たい川に浸かりっぱなしです。
獲物を追っていると今が秋であるということをスッポリ忘れてしまうらしく、川から上がると現実に引き戻され「寒い寒い寒いー!」と叫んでいる様子が可笑しいです。
「獲ってやると思ってサカナを探すと見つからんのに、なんにも考えずに川を見よるときはよぉ見つ かる…人生上手くいかんなー」
人生ときたか。
川原ではドラム缶風呂が大盛況。
ガクガク震えて順番を待ってるのに浸かってる人の「もうどうなってもいい…」みたいな表情を見ると
早く交代して、が言い出し難い状況です。
じゃあ湯船を増やせばいいんだ、と川原に穴を掘り出した子が。
ブルーシートでプールを作って、ドラム缶からお湯を分けてもらいます。
守護神のようにずっと浸かっているアームユームにちなみ「アームの湯」と呼ばれていました。
上流に探検に行った班がやっと帰って来ました。
面白い流れを見つけると何度も繰り返し流れ、大きなサカナを見つけると全員が止まるので全然先に進まなかったとスタッフがこぼします。
途中 出会った地元のおじさんに「ここにL字の金属が沈んでいるから取ってくれ」と頼まれ、全員で潜って探す場面もあったとか。
同じコースを流れても、ただひたすらにサカナを追いかける子、綺麗な石を探すことに夢中な子、ぼんやりと浮かぶだけで幸せそうな子、と
それぞれ見ている景色は全く違うことに驚きます。
お、本部前が盛り上がっています。
川の学校ではヤッピーボードと呼ばれているSUP(スタンドアップパドルボード)に、川原をダッシュし助走を付け飛び乗る新しい遊びが誕生しています。
こういう遊びは子どもの方が上手です。余裕の表情で2人で乗ったりと更に技を磨いています。
高校生スタッフのリズが派手にひっくり返るとその場にいる全員が笑いました。
2日目の夜話は変わり種。
「今夜の夜話はこの人です」と紹介され前に立ったのはスタッフのぐりです。
ぐりはガーナに青年海外協力隊で派遣されていた経験の持ち主。
ガーナの民芸品のピアスを付けて、なんだかおしゃれしています。
ぐり班の女の子達が「きゃぁ~…」と静かに興奮する声が聞こえます。
ガーナの文化、食生活、少し悲しい現実。
「失礼なことを言うようだけれどガーナの教育は、日本のみんなの受けている教育に及ばない。もっと全ての子ども達が平等に学べば変わることもあるのに、と思った。悔しかったの。」
ぐりの飾らない言葉にみんなが聞き入っているのが伝わります。
「だから、みんなにはもっともっと学んでほしい。間違っていることには間違っていると言え るような、そんなチカラを付けてほしいです。」
1年間一緒に遊んできたぐりが言ったことだからこそ、きっと響いたんでしょう。神妙な顔つきの少年少女。
けれど、夜はこれからです。
なんだかスタッフのわんわんがゴソゴソと準備をしていますよ。
「吉野川ウルトラクイズー!!」
懐かしい語呂のタイトルが夜の川原に響くと川ガキ達がぞろぞろと10角テントに集まって来ました。
カヌーツーリングや野田さんのスライドショー同様、こちらも最終回恒例のわんわん主催◯✕クイズです。
いままでみんながキャンプで培ってきた川の知識が試されます。スタッフも参加OK、ガチンコの実力勝負です。
優勝はミスター洵。スタッフかたなし。
敗者復活戦や らで盛り上がるなか、早々に負けた面々は焚き火です。
栗やマシュマロ、おでんやおにぎり、差し入れや夜食を楽しみながらおしゃべりに花が咲きます。
子ども達の学校での話や、謎に包まれたスタッフの私生活の話。
こんなに一緒に遊んでいても知らないことだらけなのだということに気付かされます。
みんな時間を惜しむかのように話し、笑い続けます。
「いっぺー班、全員寝ました!」CDいっぺーのいつも通りの報告に笑いがこぼれます。昼間遊び過ぎて、最後の夜なんて関係なく眠りに落ちた面々も…。
明日は卒業式、こんな底抜けに楽しい夜も今日が最後なんだなと噛みしめるように
笑い声がひとつ、またひとつ消え、最後のランタンを消したのはもうとっくに日にちが変わった後でし た。
しんみりする暇もなく、朝です。さすがに眠そうな子ども達ですが朝ごはんを補給するとすぐ叫び出します。
「カワー!マダー?!カワー!!」
遊びたくって今にも暴れ出しそうな子ども達と最後のあそびミーティングです。
さすがに疲れたのか、陸でクラフトをすると言う子がいます。
「最後だよ、川入らなくていいの?」とスタッフが声をかけると悩んだ挙句、着替えに走りました。
すっかり洗脳完了です。にへへ
それぞれの遊び場、時間いっぱい遊びます。
みんなが最後の遊びに選んだのはなんだったんでしょうか。全員の最後の遊びに付き合いたかったなぁ。
最後の最後まで川の中でみんなが笑っています。
キッチンさんが困ったように笑いながらお昼ごはんの完成を知らせてくれました。
「あとちょっとだけ!」
「最後にもう一回だけ!」
「ラスト!ラストだから!」
そんなこと言って誰よりも粘っていたのは、りょうすけとケイピー?
それとも私?
お昼を食べて、テントを片付けていると少しずつ保護者の方が川原にやってきました。
子ども達1人1人に、川の学校で得た『みんなに自慢できること』を発表してもらいました。
「魚をたくさん捕った。」
「カヌーが上手くなった。」
「潜れるようになった。」
「友達がたくさん出来た。」
保護者の方々が笑顔で、時にはうっすら涙を浮かべて聞いています。みんなこんなに自慢出来ることが増えました。
校長先生からスタッフ手作りの卒業アルバムと、CDさんからのメッセージが書かれた川原の石がプレゼントされます。
野田校長と握手を交わすみんなの顔が誇らしい。
計算するとたった13日間。たった13日間が君たちに、私たちスタッフに、与えたものってどのくらいでしょう。
そう考えるとやっぱり川の力ってすごくって、みんなの成長速度もすさまじいんです。
あ、CDのしほが泣いちゃいました。釣られてみそりんも泣き出します。
その様子に、みんな笑いながらも瞳がゆらゆら。
集合写真を撮ってお別れです。
また同窓会で会えます。吉野川に来たら会えます。川で遊んでいたらいつか会えます。
もっともっと大きくなって、たくましく、賢く、かっこよくなったみんなに会えるのを楽しみにしています。
だからとりあえずはさようなら。
また、川で!
Copyright 2012 吉野川シンポジウム実行委員会 All Rights Reserved.